事前に貰った飯能祭りのパンフレット"山車まっぷ"にもあった様に、大通りでは既に
、巡行が始まってました。順番もキチンと決まっていて、総台数10台の山車は、今年
の当番町である双柳(なみやなぎ)町が先頭で、一、二、三丁目の三台に続いて、河原
町、宮本町、原町、前田、柳原、中山と、各町の山車が、大通りを東飯能駅方向へ進行
しました。東町交差点を過ぎ、NTTの角を右折した通りで全山車が休憩して、午後3時過
ぎからの駅前通りでの引き合わせの時刻に合わせて、休憩後各山車は順次、出発して行
きました。 屋台と呼ぶのか、山車と呼ぶのかの議論は止めにした
いが、その道の研究者のお話でも、江戸時代の関係文献には"山車(だし)"という字句
は、何処にも出てこないそうです。これは、小生の推察ですが、中世から、近世の
江戸時代迄の長い間、祭りの際、引き出された飾り物、練り物などは、それぞれの名で
呼ばれていたと思われます。静岡の掛塚の山車は、飯能の山車とよく似てます。この山車見聞録の
ページで既にご紹介しました岸和田の"だんじり"も、佐原のジャンボな人形の山車も飯
能の山車と同じ平屋台の形です。日本各地の祭り屋台は千差万別でしたが、基本形は平
らな形の平屋台(ひらやたい)で、当時の呼び方も"やたい"などと云ってたのではない
かと想像します。
先般、川越市の博物館で開催されていた川越氷川祭礼の企画展で展示されていた「川越
氷川祭礼絵馬」に、数人の囃子連中が乗った台車に一本柱を建てて、その柱の上に高欄
が付き、作り物を乗せた車を、祭り衣装を着た大勢の町民が曳く絵がありました。作り
物は、人形や鳥、太鼓などで、精巧に作られている様子でした。写真で知ったのですが
、八王子型人形屋台は、丁度、飯能の山車の屋根の真ん中に柱を建てて、その柱の頂上
に人形の座を設けて、人形を飾った形です。何かこの絵馬の絵に似た感じがします。
笛、太鼓の囃子と舞踊を見せる屋台が、次第に「飾られた突き出た出し物」も備
える屋台に変形していったものを"山車"と呼び始めたのではないでしょうか。山車の呼
び名が当時の文献に無いとすると、まだ少数派(マイナー)な呼び名であったのでしょ
う。江戸の天下祭りで、ほぼ形が定まって神田祭りの江戸型の山車を"だし"と呼び慣れ
て行って、特に明治以降になって、江戸以外の各地にあった屋台も江戸での呼び名にひ
きずられて、"だし"と呼ぶようになったのではないかなと、小生は思ってますが、皆様
は、どう考えられますか。今現在、屋台と呼ぶほうが小数派になってます。
今回
の飯能まつりで、飯能の山車(飯能まつりのパンフレットも、屋台でなく山車と記述し
てます)を実際に見学して、距離的にも飯能に大変近い川越の江戸型山車とは全く違っ
た姿、形の山車を眼の前にして、これほど祭りの外観(ハード)は異なるのに、祭り囃
子(ソフト)のリズム、旋律は酷似していて、囃子台での舞踊も殆ど同じであることに
奇異な驚きを感じました。文化の伝播やその保存継承ということは、距離だけでなく、
地勢や政治統治といった複雑な要因での背景が強く影響していると思うと、なかなか面
白いですね。そして、簡単には、結論は出せるものでないことも、充分判りました。
休憩地を出発した山車は、東銀座通りを駅前通り方向に向かって進みました。先
頭の当番町の双柳の山車が、東銀座通りと駅前通りの交差点で、次ぎに続く山車を出迎
える形で駐車します。当番町の山車責任者達が横一列に並んで出迎えの挨拶をする前を
、9台の山車が交差点を次ぎ次ぎと右折して、駅前通りの所定の場所に横一列に並び始
めました。祭りのハイライトですので、詰めかけた観衆が車道迄溢れ出し、交差点に近
づい来た山車を見ようと、どっと車道に出てくる観衆を押し返そうとする警察官の警笛
が耳に痛い程でした。又、歩行者天国ではないので、一般車は遮断されてますが、バス
とタクシーは通行してますので、車が交差点に近づくと同じ様に警官の制止の甲高い笛
が鳴り響き、山車の囃子の音と合わさって、騒然とした雰囲気になるのには、いささか
閉口しました。折角の山車祭りですので、完全な歩行者天国にするとかの改善策を検討
して貰いたい。
川越が江戸型の大型の山車とはいえ、囃子台の広さを比べると、
飯能の平(ひら)屋台式の山車の方が随分広いようです。そのせいか、飯能の舞いの方
が、動きも大きく、従って迫力があるように思えました。各山車とも、白狐(天狐)、
獅子、鬼、恵比須大黒等の舞いを精力的に披露してくれました。それぞれの面と衣装に
は伝統の重みを感じる、好いものが使われていると思いました。中でも、天狐の舞いは
印象に残りました。緩急を入れた機敏な動作で、観ていて、思わず引き付けられてしま
います。忍者が身を隠す時に使う煙幕みたいに、沢山の細い糸のような紙テープの幕を
観衆に、一瞬の内に投げつける様は誠に見事でした。どんな仕掛けになっているのか判
りませんが、すばらしく、楽しい演出をして呉れて、感謝感激でした。